書籍印刷・自費出版(個人出版・企業出版)の三秀舎がお届けする、本作りのための情報サイト

日本エディタースクールの出している『新編校正技術』によると、アメリカやイギリスで「執筆者・編集者・出版社などの組版規定の基準となっている」ものにシカゴルール、オックスフォードルールがあります(p. 535)。シカゴルール(The Chicago Manual of Style)は、その書籍としての名称を『スタイルのシカゴマニュアル』といい、そしてオックスフォードルール(New Hart’s Rules)もそのサブタイトルが「著者と編集者のためのスタイルのハンドブック」です。両方に共通するこの「スタイル」をリーダーズ英和辞典(名詞の2のd)では「書式、印刷様式、スタイル(つづり・句読点・活字などの規約)」と定義していますが、実際どんなものなのでしょうか。

まずこの2冊に共通するのは、「スタイル」の本とはいっても主に専門書、学術書のための執筆要項だということ。シカゴ、オックスフォードともに大学に関係する出版社が出していることからもわかるように、小説や実用書、児童書、写真集などはたぶんほとんど眼中にありません。あくまで学問的なフィールドの中での約束事です。

ただ面白いのは、そうやって入口が閉じているようでいて、具体的に語られることは句読点の打ち方といった基礎的な部分から、非常に丁寧に規定されているのです。ただの執筆要項にとどまらない、辞典が「スタイル」としか訳せなかった部分に踏み込む「過剰」があるのです。先にここでとりあげた「英文タイトルにおける大文字の使用」もそのひとつですし、約物のひとつひとつまでその具体的な用法が細かく規定されています。専門的な領域なのだから常識的なことは暗黙の了解で、とはなりません。私企業である出版社が「スタイル」に責任を持とうとしている姿勢、あるいは、独自の考え方を世の中に対して明確に主張する姿勢には、文字の文化と直に向き合う迫力を感じます。

ただ疑問も残ります。「スタイル」は、「組版規定」だとか「印刷様式」といった本づくりの根底を支えるものでありながら、私のみる限り学問的な文脈で扱われることが多いように感じます。ではその他の書籍などの「スタイル」はどうなっているのでしょうか。それぞれの組織のハウスルールとして世に出ていないだけなのでしょうか。また一口に学問的と言っても、法律関係や医学関係、ジャーナリズムなど、分野によってそれぞれの「スタイル」はあるようです。「スタイル」の奥行きが気になります。

最後に「スタイル」をめぐる最近の動きについて少しご紹介します。私はほとんど使ったことがないのですが、RefWorksなどの文献管理ソフトでは参考文献の整理を自分の選んだ「スタイル」によって行えるようです。ここでいう参考文献の「スタイル」とは、著者名や出版年や文献タイトルの並べ方などです(本文で引用される順に番号を振るだとか、著者名のアルファベット順に文献表に並べるといったやり方まで対応可能?)。例えば日本でも科学技術情報流通技術基準(http://sti.jst.go.jp/sist/index.html)で、参考文献の「スタイル」を定める試みがあったようです。構造化されたウェブとの関係で「スタイル」という枠組みは、相性がいいのかもしれません。