素読み校正において、送り仮名の不統一は指摘しても、ある言葉を漢字にするか、仮名にひらくかの不統一まではふつう指摘しません。もちろん学術用語などで、その書籍や論文中において表記の統一が必要なものは、ばらばらでは困ります。それら明確に規定されるべきものは統一表といった形になっており、それに従います。しかし著者が漢字と仮名の使い分けをしている場合もあり、すべてに統一が取れていればいいというわけではないでしょう。
児童書などで「小学校5年生以上で習う漢字にはルビをつける」といった方針がとられることがあります。こういう一部の漢字のみにルビをつける方針を『校正必携』では、漢字すべてにつける「総ルビ」に対し、「パラルビ」と呼んでいます(p. 224)。そこで便利なのが講談社校閲局編『日本語の正しい表記と用語の辞典』の「主要漢字五十音順音訓表」であり、その漢字が何年生で習う漢字なのか、読みから素早く引くことができます。この表にはまた常用漢字の読みについて、中学校、高等学校段階で学習するもの、といった情報も掲載されています。
字体の違いについては『校正必携』所収の「全音訓五十音順 常用漢字表 付旧字体」が便利です。組方要項(組版作業伝票)にて新字との指定がある場合、常用漢字は、原稿がどうであれ旧字や異体字ではなく表に載っている文字にします。ただしその場合でも人名、会社名などの固有名詞や、個別に指定があるときはその限りではありません。「文藝春秋」という雑誌は「文芸春秋」ではないでしょう。また字体は同じでも書体による「デザイン差」がある場合もあります。さらに字体の話はコンピューターとの相性もありますが、それはまた別の話です。
以上あまり脈絡もなく校正の立場から見た「漢字」について述べてきました。漢字にするか仮名にひらくか、どの学年、学校で習うか、そして字体の問題。あまりまとまりがないということは、逆に考えれば、これと限定されずいろいろな場面で漢字が関わってくるともいえます。丁寧に向き合っていきたいものです。今回扱わなかった漢字制限の歴史なども含んだ全般的な知識については、『新編校正技術』(p. 265-294)などをご覧ください。
注
小学校で習う漢字の学年別配当については学習指導要領に規定されています。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/syo/koku/001.htm
常用漢字の読みの小学校、中学校、高等学校別の割り振りについては、文部科学省初等中等教育局長名での、各地の教育委員会などへの通知に規定されています。このことは講談社校閲局の方よりご教示いただきました。
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1304421.htm
参考文献
講談社校閲局編 2013 『日本語の正しい表記と用語の辞典 第三版』 講談社
日本エディタースクール編 2011 『標準校正必携 第8版』 日本エディタースクール出版部
日本エディタースクール編 2011 『新編校正技術 通信講座テキスト版』 日本エディタースクール出版部